日本では「学校新卒」として4月に社会人として一括採用します。低い初任給からスタートして、年齢とともに賃金が少しつつ上昇していきます。そしてある年齢に達すると、賃金は頭打ちして、さらには低下します。この時系列推移を年齢別賃金カーブと呼びます。
欧米では学校新卒を社会人として一括採用するわけでは必ずしもないのですが、平均的な年齢別賃金カーブは上述した日本のそれと似た形をしています。しかし、中身が日本とは異なるのです。この中身の違いが社会構造の違いを生み出します。
欧米企業では年齢とともに賃金が急激に上昇する一部のエリートと、年齢が上がってもほとんど昇給しない多数のノンエリートに極端に分かれています。エリートの年収はノンエリートの何倍にも達します。
それに対して、日本の場合は、同じ企業に勤める従業員であれば、業績上位者と業績下位者の賃金の差が小さいです。平均的な年齢別賃金カーブの上下1~2割以内の幅にほとんどの従業員が含まれます。このように、日本ではエリートかノンエリートの違いよりも、おもに年齢によって賃金が決まる年功序列型の賃金体系となっています。
欧米のノンエリートは年齢が上がっていっても、例えば、初任給の1.5倍にも達しない比較的少ない賃金で働き続けます。ノンエリートは、例えば、大企業に400万円で入り、500~600万円ぐらいで社会人生活を終えるのです。
一部のトップエリート階層だけが、超高給を稼ぐので、平均値で見れば熟年層の賃金は若年の2~2.5倍ぐらいまで計算上は高まり、日本の年功序列型賃金体系と大差ないように表面的には見えてしまうかもしれません。しかしながら、中身の実態は上記のようにエリートとノンエリートに極端に分かれているのが実態です。
職務主義で、同一労働同一賃金に近い相場環境の中で働いているノンエリート、年齢が上がっても、初任給の1.5倍ももらえないノンエリートは、30年間営業一筋でも、50歳過ぎて、年収が例えば500~600万円ぐらいと低いままです。新入社員の年収と100万円か150万円しか違わない比較的安い賃金で、企業内教育の必要もなく、人的管理の必要もないので新入社員を雇うよりも雇用側にとっては都合が良いのです。あえて若者を新規採用しようという動機が企業には生まれません。
ノンエリートは、ポストに空きが新たに生まれない限り採用されにくくなります。腕の良いベテラン熟年層が比較的安い賃金で働き続けてくれるからです。即戦力となるべくノンエリートは、卒業後、無給に近い形で丁稚奉公して仕事を覚えなければなりません。インターンとかアソシエイトとか呼ばれる下積み期間です。企業は、賃金が比較的安くて仕事がこなせる熟年労働者を多数擁するため、若年雇用に対しては冷たいのです。欧米の若年失業率が日本の2~3倍に達するのはこのためです。
ノンエリートは仕事に就いた早い段階から、「出世の階段を昇ることを諦めた職業生活」を歩まざるを得ませんが、企業の人件費負担は軽いため、年齢が上がったからといって、一律に強制排出させる定年制度の必要がありません。定年制度がないため企業を辞める必要がない結果、未経験者、つまり若年の新規採用がますます阻害され、熟年が有利な社会となります。
上のような欧米と比較して、日本では、熟年層は仕事に不相応の高い賃金をもらっている傾向が強いように思われます。欧米のように、仕事のできる一部のエリートの賃金だけが上昇してゆくのではなく、みんなが一律に近い形で、新入社員の2倍以上もの賃金をもらうようになります。企業にとっては人件費の負担が増えます。だから、定年制度によって高給取りの熟年層を大量に排出しなければなりません。
その前にも役職定年があって、大幅に賃金を下げます。定年制度が機能するからこそ、新しい人材が必要となって、未経験でも低賃金で済む若年を積極的に採用する余力が企業に生まれるのです。新卒の賃金が安いために、下働きをさせながら仕事を覚えさせることも出来ます。社外で低給で丁稚奉公し仕事を覚えた後の若年層を採用するというような、欧米では一般的なインターン制度を経ることなく新卒を日本ではいきなり採用します。これが新卒一括採用で、結果として、欧米とは違い、若年の低失業社会が実現するという好循環が働きます。
欧米での若年採用について語られる時、上位1割、若しくは数%のエリートたちを指してバラ色のキャリアパスが語られることがあります。9割以上を占めるノンエリートを含めた現実は、上述した通りなのです。
若年の未経験者を優遇して採用する社会構造になっているという意味で、社会人への入り口部分において、若年層全体的的には日本型は欧米型より優れていると言えるかもしれません。